現代の日本が抱える社会問題の一つが「人口減少」であり、特に地方では「人口減少」が深刻だ。人口減少に直結するのは「少子化」で、2020年の出生数は約84万人。2021年の出生数は過去最少の約81万人となっている。その親世代、1990年ごろの出生数は130万人前後だったので、親世代の約6割まで減少している。「親世代の6割」という減少幅は、小学校の教室に例えてみればわかりやすい。親世代は40人の教室がいっぱいだったが、子世代では24人ほどになるという状況だ。また、この出生数の現状は今後も進行していくことが予想される。
参考:内閣府「少子化社会対策白書」第1章 少子化をめぐる現状
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2022/r04webgaiyoh/html/gb1_s1.html
「人口減少」により様々な問題が引き起こされると予想されるが、その1つが「人手不足」である。注目すべきは15歳から64歳の「生産年齢人口」の減少。社会の中の働き手となる年代であるが、この「生産年齢人口」が減少するとこれまで維持していた社会の様々な機能が維持できなくなる。この「人手不足」により、高齢者世代や外国人労働者の活用、さらにはAIやロボットの活用、デジタル技術を使った「働き方改革」などが進められている。
例えば1人の労働者に集まる求人数を表す「有効求人倍率」も高い状態が続いているが、これは慢性的な人手不足に起因する面も大きい。
「人手不足」がより深刻化するのは地方だ。例えば岩手県では2020年の「生産年齢人口」が65.8万人。これが2045年には42万人まで減少することが予想されている。
「RESAS(地域経済分析システム)-人口構成-」より作成
例えば農業・漁業などの農林水産業の担い手はどうなるのか。福祉や医療の機能をどう維持するのか。商店街のにぎわいをどう維持するのか。そして空き家や耕作放棄地などの課題をどう解決するのか…様々な課題をよりよく解決していくことが求められている。
そして、まさにこの2045年に社会の中核となって働いている世代が今の高校生となる。人口減少により、もしかしたら様々な問題が起こるかもしれないが、逆に言えば、様々な新しいチャレンジが各所で起こる可能性がある。高校生のうちから、「人口減少」の課題と日本の将来の行く末を探究していくことは必ず将来に生きてくるはずだ。
「人口減少」の課題を考える基礎的なデータとして、まずは自分たちが住んでいる地域の「人口ビジョン」を見てみることがおすすめだ。2014年に制定された「まち・ひと・しごと創生法」により、各都道府県や市町村が作ったのが「人口ビジョン」。「○○市人口ビジョン」、「○○県人口ビジョン」などと検索ワードを入れると検索することができる。
この「人口ビジョン」では、今後の人口の目標値や具体的に解決すべき課題、住民によるアンケート結果などが網羅的に掲載されており、インターネットで手に入れられる基礎的な情報としては有効だ。
また、「RESAS(地域経済分析システム)」を使えば、各地域の人口構成や人口増減の状況がをわかりやすく知ることができる。
特にわかりやすいのが「人口の社会増減」に関するマップ。市町村ごとに、どこの市町村から転入があり、逆に転出していくのかを知ることができる。さらに年代別の分析もできて非常に便利だ。どこに転出していくか?がわかれば、解決策も考えやすい。例えば人口が東京に流出する、のであれば、東京で何か地域の魅力をPRする、とか東京にいる人たちに対して何かをやってみる、などの解決策があるだろう。
また「人口構成」に関するマップについても、「生産年齢人口」や「高齢人口」の人口の状況をわかりやすく知ることができる。
「人口」の捉え方にも多様性が広がっている。そこで広がってきた考え方が「関係人口」という考え方である。「関係人口」について、総務省のHPでは下記のように定義されている。
「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。
出典:総務省「関係人口」ポータルサイト
https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/about/index.html
例えば単に1回観光に来ただけではなく、定期的な行き来がある、である、とか、以前住んだことがあって、年に数回は訪れている、であるとか、学生時代にフィールドワークで訪れていて、そこからの関わりがある、とか…何らかの接点、関わりがあることを「関係人口」という。
具体的な事例についても総務省「関係人口」ポータルサイトの中にまとめられている。
総務省「関係人口ポータルサイト」
https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/interview/index.html
東日本大震災後に整備されたJR女川駅前の商店街
「人口減少」を食い止めるために必要なのが安心して子供を生み、育てることができる子育ての環境である。特に医療や教育の課題がある。まずは安心して子どもを生めるだけの医療体制が整っているか。そして子どもの医療費はどうなっているのか、幼稚園や保育園は十分に整っているか、など多様な課題が存在している。
自治体によっては、子どもの医療費を無償化したり、子育て世帯が快適に住める住宅を整備するなど、子ども、若者向けの取り組みに力を入れているところもある。自分たちが住む自治体でもどんな取り組みがあるか調べてみよう。
・「人口減少」という課題に対して、あなた自身はどう向き合い、解決していきますか?
・「人口減少」により、みなさんの身近なところで起きている課題にはどんなことがあるでしょうか?
・「人口減少」が進む中で、「人口増加」している地域や地方自治体にはどんなところがあるでしょうか?
あなたへの問い
「人口減少」によってどのような課題が起こりうると考えますか?理由と一緒に考えてみよう。
様々な「関係人口」作りの取り組みや、子育て支援をしている取り組みについて、GATEWAYで見てみよう。
カテゴリ)防災・復興
https://education.ownerjapan.co.jp/article/reconstruction/1014a-4/
カテゴリ)農林水産業
https://education.ownerjapan.co.jp/article/agriculture/1014a-5/
カテゴリ)子ども・教育
出産前後の母親と子どもをサポートする産前産後ケア
https://education.ownerjapan.co.jp/article/education/0005a-4/
◆参考文献
内閣官房・内閣府「地方創生サイト」
地方創生・地域活性化に関する事例が数多くまとめられているポータルサイト。
https://www.chisou.go.jp/sousei/case/index.html
「子どもが増えた! 明石市 人口増・税収増の自治体経営」(光文社新書)
子どもや子育て世帯向けの取り組みに力を入れ、実際に子どもの数を増やした事例についての新書。明石市の泉市長や地域エコノミストの藻谷浩介さん、「明石たこ大使」のさかなクンなどが明石市のまちづくりについて執筆しており多様な視点を知ることができる一冊。