道路交通需要の伸びや非効率的な自動車の使われ方により、道路交通渋滞の状況は深刻化しており、環境問題、経済効率の低下等を引き起こしている。全国の渋滞による損失は年間 12 兆円に上り、1人あたり年間 30 時間の時間損失を引き起こしているという推計もある。
参考)国土交通省HP【Ⅲ.道路交通を円滑化する】 【施策-7】 効果的な渋滞対策の推進
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-perform/h18/07.pdf
渋滞損失が集中する都心部や全国各地に存在する主要渋滞ポイントについて、効率的かつ効果的な渋滞対策を実施していく必要がある。実際、高速道路を管理している「NEXCO東日本」のHPによると、渋滞の約7割が「交通集中」によるもので、その交通集中のうち半数以上が「上り坂・サグ部」で速度が低下し、後続の車が詰まってしまうことだという。(サグ部とは下り坂から上り坂に変わる部分で凹状になっている場所)
参考)高速道路の渋滞対策(NEXCO東日本)
https://www.e-nexco.co.jp/activity/safety/detail_07.html#anchor_cause
上り坂などには「速度低下」に気を付けるよう注意喚起を行った看板を設けたり、あるいは「渋滞を予測し、ドライバーなどにを事前に周知するなどの取り組みが行われている。また、データを駆使し、AIによる渋滞予知を行う取り組みも始まっている。
参考)「どらプラ」AI渋滞予知(NEXCO東日本)
https://www.driveplaza.com/trip/area/kanto/traffic/ai_traffic_prediction.html
渋滞には多角的な解決方法がある。例えば、「いつもこの歩道は混んでいて歩きにくい!」といった苦情への対応策を考えた場合、
① 土木工学系の人は、インフラ建設で解決しようと考え、道を広げる工事をする
② 情報工学系の人は、ソフトや情報提供などで解決しようと考え、混雑情報をインターネットで提供する
③ 人文社会系の人は、人の教育・支援・協力、広報が必要と考え、人の教育をする、などの3つの提案がおおよそ考えられる。大切なことは「この3つの中のどれがよいか」を考えるのではなく「3者が協力」することであり、何が全体最適なのか考える必要がある。
避難口の近くに障害物を設置すると、避難時間が短縮されるという実験がある。出口が1つしかない部屋から多数の人が避難する場合、出口付近に障害物を置いた方が 総避難時間の短縮になることが、シミュレーション及び実験で確認された。これは電車などでも応用できるものと考えられる。
また、出口をどこに設置すれば良いか、その配置についても考えてみよう。仮に1つの部屋から退出することを考えると、出口の位置は中央よりも角の方が早く出られる。しかし全館避難を考える場合は、中央に出口を設置する構造の方が、総避難時間が短くなることもある。
並び方を工夫することもできる。複数の窓口がある場合は待機列から窓口までの移動時間に無駄が生じる可能性がある。その場合は単純に一列に並ばせるのではなく、各窓口にいる人のすぐ後ろに次の1人を並ばせた方が効率が良い。
自然は渋滞をうまく避ける仕組みをたくさん持っている。その知恵を人間の社会に活かすことは渋滞解消にもつながる。例えば、自然界のアリを3ヶ月観測した結果、速度は密度によらずほぼ一定であり、渋滞高密度は観測されないことがわかった。つまりアリは「混んできても他のアリとの距離を詰めない」ことにより効率を保っていることが明らかとなった。これは2億年とも言われるアリの進化の過程で培われた能力である。
アリは、仲間が落とした化学物質(フェロモン)の匂いを頼りに行動する。例えばヤマトシロアリは、ボールペンのインクに含まれているフェニルセロソルブという化学物質に反応する。アリは視覚ではなく嗅覚で行動しているのだ。アリはフェロモンの助けがあった方がより速く動けるため、アリの行動は他のアリに大いに手助けされている。つまり、アリの場合は集団で協力しながら進む交通システムになっている。
車はドライバーの視覚から入ってくる情報をもとに動くため、車の場合は、他車の存在は自らの自由な走行を邪魔するほうに働くともいえる。この点でアリの動き方とは大きく異なっている。
誰も呼んでいないのに動くエレベーターを見たことがあるだろうか。大規模なビルで複数のエレベーターがある場合、エレベーターは利用客が一番多い階に集まる傾向があるので、他の階では待ち時間が長くなってしまうことがある。効率よくエレベーター全体を制御し、どの階でもボタンを押してからの待ち時間をできるだけ少なくする工夫が必要である。そこで、時間帯ごとの利用階の頻度をコンピュータに学習させ、それに基づいてある程度将来のエレベーター運行ルートを予測し、その上でなるべくすべてのエレベーターが分散した状態になるように運行することが行われている。そのため、無人なのに勝手にエレベーターが動くことがある。これをエレベーターの「群管理」といい、うまく需要を予測して最適と思われる位置にあらかじめエレベータを移動させることで、待ち時間を短縮している。一方で、運行の電気代がより高くつくというデメリットもある。
参考
「渋滞学」(西成活裕 新潮社)
国土交通政策研究所 第172回政策課題勉強会 概要
https://www.mlit.go.jp/pri/kouenkai/syousai/pdf/b-150204.pdf
身の回りで「渋滞」が発生している状況を探してみよう。
なぜ渋滞は起きるのだろう。
渋滞が解消された事例を調べてみよう。
あなたへの問い
渋滞について明らかにすることで、解決される問題について考えてみよう。