私は大学の2年生で、「農学」を大学で学んでいます。私を農学の道に進ませてくれた出来事を、中学校の時から振り返っていきたいと思っています。
「うっ、お腹痛い。」中学2年生の春、色々なストレスから私は体の調子が悪くなりました。
最初は疲れているからかな…と思っていましたが、毎日毎食後に襲ってくる痛みに耐えられなくなり、母に相談したところ、内科に行くことになりました。問診や触診、MRI検査、血液検査、エコー検査…多くの検査を受けて分かったのは、「体の機能そのものには異常なし」ということでした。
しかし、思ったように力が入らない、寝ても疲れが抜けない、小さな音がとても大きく聞こえる…日に日に症状は増えていき、ついにある日、突発性難聴を発症しました。この突発性難聴はその後改善したのですが、これを機に、私は心療内科を受診することを決めました。そこで診断されたのが、自律神経失調症と過敏性腸症候群である疑いが強いということ。そして、これらの症状は治療に長い時間を要すると告げられました。
その後も続く腹痛に徐々に食欲を失っていった私は、ハードな部活と勉学に打ち込むうちに、体重が半年で18kg落ちてしまいました。「給食を食べるとその後の授業が辛くなる…」と考えるうちに、食に対して恐怖感さえ抱いていました。その私がなぜ、食と深く関わる「農学」を大学で学んでいるのか。そのきっかけは「ヨーグルトと乳酸菌」でした。
〇探究活動の始まり~中学3年生~
どんな薬を飲んでも症状が一向に改善しなかった私の病は、突然改善を見せます。それは。通っていたお医者さんの助言で、「乳酸菌飲料とヨーグルトをとりはじめたことです。一時は進級をあきらめて長期入院するよう告げられましたが、無事に進級することができました。「なぜ薬で治らないものが乳酸菌で改善したのか」ということに私はとても興味を抱き、中学3年生の夏休みから理科研究に打ち込み始めました。
「本当に乳酸菌が生きて腸に届くのか」これが私の研究テーマでした。乳酸菌はとても繊細で、居心地の悪い環境(例:強い酸性の環境)では死んでしまうそうです。腸の手前には胃があって、胃液は酸性という性質があるので、乳酸菌にとっては生きのびるのが難しい環境だと思いました。さらには、乳酸菌には非常に多くの種類があり、性質や好きな環境が1つ1つ全く違います(まるでヒトのようですね!)。
乳酸菌がヒトの身体に良い影響を与えてくれるのかを知るべく、身の回りのものを用いて乳酸菌を培養しました。例えば、微生物の生育環境を整えるためにヨーグルトメーカーという機械を使ったり、胃酸の酸性条件をレモン汁で再現した寒天培地を作ったりしました。細胞培養についての実験書をインターネットと本で探して、家にあるもので代用できるものを考えて準備しました。例えば、保温ができる器具は自宅のヨーグルトメーカーで代用したり、菌を塗り付ける棒は使い捨てのT字カミソリを使ったりしていました。
この実験の手段は、本やインターネットを頼りに自分で考えましたが、「どうすれば知りたい答えが科学的根拠をもって分かるか」を考えながら実験手順を組み立てる過程が、まるで旅行を計画しているようで、ワクワクしたことを今でも鮮明に覚えています。実験を終え、その研究成果を発表したところ、県の研究発表に参加する機会を頂くことが出来ました。そこでは色々な方から、研究の改善点や実験をする上で注意するべきことなど、研究の基本を教えてもらいました。
その中で、乳酸菌や腸内細菌の実験には多くの器具や専門の施設が必要であることを学び、「自分のこの研究テーマの答えを知るには、大学に進学する必要がある!」と気が付いた瞬間でした。
○高校でも探究活動を続ける
高校に進学した私は、後に私の恩師となる生物の先生の勧めで大学が主催する高校生対象のプログラムに応募しました。このプログラムは「将来科学者となる人材」を育てるというものでした。大学の各分野の最先端な研究内容を知ったり、医学部の研究室で2年間「膵臓がんの発がんメカニズム」を研究したり、アメリカで現地の高校生に研究成果を発表する機会を得たりすることが出来ました。2年間の研究活動では楽しさだけではなく、研究の厳しさにも直面しましたが、ここで私は「絶対に理系に進んで、人の役に立つ研究者になりたい」と志すようになったのです。
医学の最先端の研究に携わらせて頂いたことで医学の道に進もうかと迷っていた私ですが、ある日、研究室の教授から、「がん治療をされている患者さんに乳酸菌を投与して腸内環境を整えることがある」ことを教えてもらったことで乳酸菌や腸内細菌を研究したいと再び思うことができました。そして、食が人の身体・健康を作っていることを痛感してきた私は、乳酸菌をはじめとする食に関わる研究に携われる農学の道に進もうと決意したのです。
○辛い経験を乗り越える
きっとここまで読んでくれた皆さんの中には、「私は辛い経験をしてきた人だ」と感じた方もいるかもしれません。たしかに、病に苦しんだ期間のことは、出来れば思い出したくない記憶です。しかし、この経験が私を理系進学・研究者の道にいざなってくれました。
「好きなことをとことん追究したい」私はこの気持ちが探究活動に取り組む原動力です。探究活動と聞くと「何か賢そうで社会貢献になるようなことをしなくてはいけないのでは?」と考える方も多いかもしれませんが、私は「自分がワクワクすることに取り組む」ことが探究活動の第一歩だと思っています。その活動が誰かのためになればとても良いことですし、そうならなくても、自分が好きなことや嫌なこと、自分の適性など「自分を探究」する活動になっているでしょう。探究活動をこれから始める皆さんには、ぜひ自分がやっていて楽しくなりそうなことをテーマに選んで、ワクワクしながら取り組んでもらえたら良いなと願っています。
皆さんが普段食べている「食」について、何か疑問を持ったことはありますか??理由とともに答えよう
(記事に掲載されている大学生は、「乳酸菌飲料とヨーグルト」が探究のきっかけになりました。)