研究にも探究にも必要なのは「好奇心」 齋藤武彦先生(後編)

カテゴリ:科学・理科

◆未来へ向けて・高校生へのメッセージ

背伸びして考えよう

ある物事に興味を持ったら、背伸びして考えることが大切だと考えています。私は小学生の頃、アインシュタインの「特殊相対性理論」の本を読んでいました。

しかし当時は小学生ですから、例えば√(ルート記号)もわからず、内容は全くわかりませんでした。知らないことが出てくるたびに図書館の本で調べて読み進めていました。それでも理解することはできませんでした。ですが知らないことに出会うことで、それを調べるためにまた違う本に手をつけることができ、とても良いきっかけになりました。

今の自分には難しい本であっても、本当に興味があるものであれば、わからないことに出会うたびに自分で調べながら読み進めていくことができます。これによって自分が本当に興味があるのかどうか推しはかることができるのです。

自分が理解できる難易度の、身の丈に合った本を読むと、十分に理解ができ、満足してしまうことになってしまいます。ですから最初に自分のレベルよりも背伸びした本に触れることが大切であると考えています。

「ひらめき」を大事にしよう

科学は知識を積み上げて進化を遂げてきました。みなさんの普段の勉強と一緒で、簡単なことからスタートして少しずつ知識を積み上げていくことです。

ですが、あるときには突拍子もない発想、ひらめきも必要です。科学においては緻密な理論が重視されていると思われがちですが、人間的なひらめきも大事。科学で大事なのは「遊び心」だと思っています。

「こうなったらどうなるんだろう」という自分の遊び心がすごく大事。科学は自分の中の好奇心を理論や数式で表現することだと思います。芸術も感性で喜怒哀楽を表現すること。科学と芸術は似ていると思います。人工知能(AI)が発達していますが、人間は、人工知能の知識の積み上げにはかなわない。じゃあ人工知能が出来ないのが突拍子もないひらめきだと考えています。

海外のどこかには、自分に合う場所がある

デンマーク、アメリカ、ドイツで研究を行ってきました。今は中国にも研究室があります。特に、私はドイツで20年ほど暮らしていました。ドイツは非常に自分にマッチしてたんですね。自分にとってのパラダイスみたいな国です。

海外で生活するのは意外と楽だったりします。ドイツでは、日本人の私は「外国人」。海外ではしがらみがないので、ある意味責任を感じることを少なくしながら生活することができるのだと思います。失敗しても恥ずかしいなと思うことはそこまでありません。逆にのびのびとやれるところがあります。

私日本では逆にうまく行かないところがありました。実は日本には友達もいなくてあまり好かれない人間でした。自分でどんどん意見を言って人の輪にも入れなかった。とても、きゅうくつさを感じました。外の世界を見ると全然違う文化があった。開放されたような思いでした。ドイツで頑張ったからこそ逆に日本でも頑張ろうと思い2019年、23年ぶりに日本に戻り、今は理化学研究所にも研究室を持って研究しています。

今きゅうくつさや生きにくさを感じている人も、海外に目を向けてみるのもいいのかもしれません。すると、海外には1か所くらい自分に合う場所があると思います。僕はそれがドイツでした。インターネットが普及した現代は現地に行かなくても海外の情報を得ることができます。しかし、匂いや音は伝わってきません。現地に行くことでしか得られない体験がたくさんあります。

リーダーになる人を育てたい
私は若い人たちにリーダーになってほしいと考えています。研究のリーダーというのはまるで企業の社長みたいなものだと考えています。研究チーム全体をよく見てメンバーそれぞれの良さを活かせるように割り振ったり、自分たちが研究していることの面白さを伝えて予算を集めたり、5年、10年先の研究の計画を考えたりする必要があります。そのためには理系の研究であっても、経営、発信力、組織作りといった能力も必要とされるのです。優秀な物理学者であっても研究のリーダーになれるとは限らないのです。

あなたへの問い

あなたが齋藤先生の話を読んで、明日から行動したいと考えたことは何ですか?

◆おすすめの本

世界史を学んでおくことをおすすめします。海外で生活していると政治、宗教などの話題が雑談でもよく出てきます。世界で起きていることを知って、自分に何ができるか考えることも重要です。

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