研究にも探究にも必要なのは「好奇心」 齋藤武彦先生(前編)

カテゴリ:科学・理科

ドイツ、中国、日本の3拠点で研究をされている齋藤武彦先生は、小学生のころの経験を原点に、物理学の研究を始めました。また、東日本大震災をきっかけに「社会に貢献すること」を意識し始め、東北地方の子どもたちに科学の楽しさを伝える活動を続けてきました。齋藤先生へのインタビューを前編・後編に分けてお届けします。

◆取り組みのきっかけ

「目に見えないもの」に興味を持つ

子供のころから宇宙に興味がありました。特に星がどこにあって、どうやって誕生したのかについて関心を持っていて、小学生のころ祖父からもらった星の一生についての本を気に入って読んでいました。

小学生の時になると、「わからないことは自分で調べてみたい」と思っていて、自分で色々な実験をしていました。

リニアモーターカーの仕組みを知った際には磁石をたくさん用意して自分で作ってみましたが失敗。ガリレオの伝記で天体望遠鏡を知った時は、厚紙とレンズを使って自分でも作ってみました。これも厚紙が柔らかく、焦点が定まらずうまくいきませんでした。失敗ばかりでしたが上手くいかない理由をまた調べ続けていました。

アインシュタインの「特殊相対性理論」について知っていることを自慢してきた友人を見返したくて、特殊相対性理論について調べたりもしていました。知的好奇心旺盛な子ども時代を送っていましたが、実は学校の勉強は好きにはなれませんでした。学校の勉強は今まで誰かがやってきたものの積み重ねで、答えが最初から決まっているものだと感じたのです。私は、「誰もやっていないことに挑戦したい」ということを考え、理系の大学に進み、海外で研究をしています。

今の研究のきっかけとなったのも、小学生の時のできごとです。日本で最初にノーベル賞を受賞した湯川秀樹さんの伝記を読んだことです。世界を構成しているのに目に見えないものがあることに衝撃を受けました。今研究しているのは、「物質がどのように構成されているのか」という原子核物理学。実は物質を構成している「原子」の中にある「原子核」についてはよくわからないことが多いんです。

研究するにも、高校生の探究活動でも、「好奇心」が一番大切だと思います。私は、「わからないこと」、「見えないもの」への好奇心を持ち続けています。今研究しているのは「1フェムトメートル」、「1ピコ秒」単位で何が起こっているか。1フェムトメートルは1000兆分の1メートル、1ピコ秒は1秒の1兆分の1の長さで非常に短い長さになります。ただ「小さいところで何が起こっているか」が正しくなければ、単位が大きくなってきたときにずれてきますよね。なので「小さいところがどうなっているか」をはっきり精密にさせないといけないと考えています。

◆齋藤先生が研究されている「ハイパー核」についてはこちら

https://www2.kek.jp/kids/class/nucleus/class03-03.html

◆どんな取り組みをしているか

東日本大震災をきっかけに東北へ

ここ10年は研究者として、どのように社会に貢献するかを考えてきました。そのきっかけは2011年の東日本大震災でした。東日本大震災の時、私はドイツに住んでいました。何か支援をしたいと思ったものの、何もできない無力さを感じていました。原子力発電所の事故にも胸が痛みました。原子力発電の仕組みには物理学もかかわっているからです。

震災の1年後、2012年から年に2回ドイツから東北に通い、子供たちに「科学の楽しさ」や「物質のはじまり」について伝える授業を行っています。東北の小学校、中学校、高校を2週間ほどかけて回ることを約10年続けており、コロナ禍になった今はオンラインで授業をしています。その数は400回を超えました。

ドイツに住んでいる私が東北で講演することで、「世界の人たちも忘れてないよ」ということを伝えられると思ったのです。実際に講演してみると、東北の子供たちは、素直で吸収力がある。感じたことをそのまま口に出せる素直さがあると思います。

東日本大震災は、インターネットが発達した現代で記録された最初の災害だと思っています。被災した東北の人たちが助け合っている姿が世界を動かしました。他の地域では、被災した地域で争いがおこったかもしれない。東北の人たちが助け合う姿は世界に希望をもたらしたんだと思います。今も日本や世界各地で災害が起こっています。私は震災を乗り越えたみなさんなら、世界に手を差し伸べられるよ、と講演で伝えています。

あなたへの問い

あなたが「好奇心」を燃やしていることは何ですか?その理由とともに答えましょう。

ヒント:今好奇心があること、かつて好奇心を燃やしていたことを考えてみましょう。

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