カテゴリ:防災・復興
小学4年生の時に東日本大震災を経験し、高校生の時に「全国に防災意識を広める」という活動を行った福島出身の男子大学生の体験談です。「全国高校生マイプロジェクトアワード」というコンテストの全国大会でも発表しました。
たとえうまく行かなくても「防災意識を広めよう」と活動し続けた経験の裏にはどんな思いがあったのか。そして探究から何を学んだのか。彼自身の探究学習の経験から感じ取ってみましょう。
◆課題を見つけたきっかけ
自分が「防災」について探究しようと思ったきっかけは、小学校4年生の時に経験した東日本大震災です。当時私は福島県の沿岸部にある大熊町に住んでいて、激しい揺れに襲われました。「逃げろ!」という声を聞いてその時とっさに避難しましたが、10分で着くと言われた避難場所に30分かかりました。地震や津波が起きないと思っていた自分は、なぜ避難しているか?がわかりませんでした。そして、震災で友人のご家族が亡くなったことを知りました。その時にとてもつらく悲しい思いをしました。「このような思いを他の誰にもしてほしくない」と考えたことが自分の探究の原点でした。
福島第一原発の事故の影響により、大熊町で暮らすことができなくなり、小学校高学年から中学生にかけては大熊町から約100キロ離れた、会津若松市で過ごしました。そして中学生のころから「防災について将来は調べてみたい」と思い始めました。
高校からは大熊町に近い浜通り地区の高校に通いました。野球部に所属していたため高校1,2年生は部活動に力を入れていたのですが、「高校3年生になって部活動を引退したら防災のことを調べたい」という思いを持ち続けていました。なので、阪神・淡路大震災の事例など、他県の災害の事例を調べるなど準備を進めていました。
◆解決に向けた取り組み
そして高校3年生になり、防災に関する探究を本格的にはじめました。まずは、自分が通っている高校の生徒約300名に「自分の故郷の避難経路を知っているか」というアンケートを取ってみました。結果、半数以上が「避難経路を知らない」という結果になりました。「知らない」と答えた人の理由をもう少し分析してみると1位が「必要だと思うが知ろうとしなかった」、次が「知る方法がわからない」という結果でした。
私が目を付けたのが、「避難訓練」です。自分自身も震災の前、避難訓練に適当に参加をしていて、そこで、「避難訓練」は必要だがつまらない、面倒だというマイナスのイメージを持っていました。アンケートの結果から、避難経路を知る必要性はみなさん感じているので、この「避難訓練」にプラスのイメージを持つことができれば、「避難経路を知らない」という課題を解決できると考えました。
そこで、私が考えたのが「祭り」と避難訓練を組み合わせるということです。祭りなら楽しいというプラスのイメージを持つことができると思っています。当時通っていた高校の近くで、東日本大震災の影響で行われなくなった祭りがあり、その祭りを復活させようという動きがありました。そこで、その祭りの「おみこし」に避難経路を歩いてもらおうと考えました。地元の大人の方と何度も話し合いを重ねてきました。実際、祭りは復活したのですが、避難経路を半分しか歩くことができず、また避難についての説明もできませんでした。
終わった後に振り返ってみると、自分は「避難経路を歩くこと」を一番に考えていて、協力者の大人の方は祭りの復活を一番に考えており、互いの意見が合わないことが問題だと思いました。私がここから学んだのは、自分の意見を達成するために協力者の方の意見を聞き、2つの意見を達成できる場所を探すことが大切だということです。
「ここであきらめても意味がないな」と感じた私は、次なる行動にでます。それは地元の小学校の遠足で避難経路を歩いてもらうことです。小学校に電話して、電話ではOKをもらえたと感じていましたが、実際に小学校を訪問してみると、先生から「OKは出していない」と言われました。このことから、やりたいことを言葉だけではなく文章にして後から見返すことができるようにすることが大事だと考えました。
その後、これらの失敗をもとに相手の意見を聞くことを心がけ、今度は幼稚園に園の散歩で避難経路を歩いてもらうことを依頼しました。幼稚園の園長先生には、先に依頼の文章を送ってからお願いに行きました。「園児がけがをしないようにする対策はどうなっているか」という質問を頂きましたが事前に質問を予測しておいたので、すぐに散歩で通る道を示すことができました。結果、ついに幼稚園の園児たちに避難経路を歩いてもらうことができました。また、足が悪く自分では避難できない老人ホームの方に避難経路を歩く様子をまとめた動画を見せたりしました。
私はこの探究の経験を「全国高校生マイプロジェクトアワード」というコンテストに応募し、全国大会に出場することができました。
全国大会のプレゼンテーションではこれまであきらめずに防災に取り組んできた経験や、「避難経路+α=幸せな未来 という方程式を広げていきたい」ということを伝え、「ベストオーナーシップ賞」を頂くことができました。全国で発表の機会を頂いたからこそ全国で探究活動を行う同世代の仲間とつながることができ、本当に貴重な経験を得ることができました。
◆未来に向けて・高校生へのメッセージ
探究学習を通して、自分が目指す進路も変わりました。高校に入学した時は、野球に熱中していて、高校を卒業したら就職しようかな、というようなことを考えていたのですが、探究学習を通して自分にコミュニケーション能力や他者と対話する力が不足していることに気づきました。そこで、「スポーツコミュニケーション」が学べる大学に進学することを決めて、大学でコミュニケーションの方法や情報発信について学びました。探究で地元と関わる機会が多かったので、将来は地域への貢献をしながら、防災に関わりたいと考えています。
高校生のみなさんには、まず好きなことを探究してほしいと考えています。好きなことなら続けられると思いますし、好きなことならあきらめないと思います。そして、発表の機会やアウトプットする機会を大切にしてほしいと考えています。私は「マイプロ」に出場したことで人生が変わりました。そういったコンテストにもぜひチャレンジして、自分が「楽しい」と思ったことを発表してみてください。
カテゴリ:防災・復興
◆全国高校生マイプロジェクトアワードとは
マイプロジェクトアワードは探究学習・マイプロジェクトを実行した全国の高校生が一堂に会し、活動の発表・参加者との対話を通して次の一歩を考える、日本最大級の「学びの祭典」です。毎年11月頃からエントリー開始予定。
◆おすすめの本
「バンクーバーの朝日」(西山繭子)
カナダに実在した日系移民の野球チームの物語。「実話をもとに色々なことを考えられる」とすすめる。