「カーシェアリング」で作るつながり(前編)

カテゴリ:防災・復興

【探究 復興】「カーシェアリング」で作るつながり(前編)

宮城県石巻市の一般社団法人日本カーシェアリング協会の吉澤武彦さんは、2011年の東日本大震災をきっかけに石巻に拠点を作り、「車」を通じた支え合いの仕組みを作ってきました。その原点には1人の恩師との出会いがありました。吉澤さんの取り組みを、2回に分けてご紹介します。


◆人生の師匠との出会い

 私は兵庫県姫路市の出身で、ずっと関西地方で暮らしてきました。会社員として働きながら、純粋な遊びサークルを立ち上げて、仲間と山や川に遊びに行くとか、面白いこと、楽しいことをやっていたんです。いつの間にかそのサークルは200人くらいの規模になっていました。じゃあ次は何か「意味のあること」をということで、講演会を企画するとか、チャリティー活動や色々な立場の方が集まる交流会を開くことをしていました。

そんな時、2007年に友達が開いたイベントで、「山田和尚さん(バウさん)」というすごい方がいるということを耳にしたんです。1995年の阪神・淡路大震災の時に「神戸元気村」という団体を立ち上げ全国から集まったボランティアたちを束ねて活動していた。それからオゾン層を保護するため、全国の自治体1000か所以上を1人で回って、フロンガスを回収する仕組みを整えた…そんなお話を聞いたときに衝撃を受けました。

イベントから家に帰った私は、バウさんのホームページを調べ、そこにあったメールアドレスに連絡してみました。すると、バウさんが当時住んでいた埼玉から大阪まで会いに来てくれたんです。バウさんの話をもっと多くの人に聞いてもらうため、社会人サークルを通して50~80人規模の講演会「オンリーワン思いっきり生きろ」というテーマのイベントを主催し、バウさんと朝まで語り合いました。そこから、バウさんと一緒に活動するようになったんですね。

バウさんからはよく「コマになるな、タイヤになれ」と言われました。コマは漢字で書くと「独楽」、「ひとりで楽しむ」と書きます。くるくると1人で回っていても何も変わらない。タイヤのように周囲を巻き込め、風景も場所も変えながら動けという教えでした。


◆課題を見つけたきっかけ

 その教えを行動に移す時は、突然やってきました。2011年、東日本大震災です。私は震災の1週間後から福島県の方々を支援していました。その後バウさんから、「被災地に車を持っていく活動をしたらどうか」というアドバイスをもらいました。

 当時、津波で多くの車が流され、被災者の方は「生活の足」を失っていました。家を流され、車を買うことも難しい状況でした。私は被災規模が大きかったところであれば車のニーズも高いだろうと考え、石巻市に向かうことにしました。バウさんの仲間たちが石巻で活動していたつながりもありました。

◆課題解決に向けた取り組み

 石巻市では約6万台の車が被害を受けたとされています。まずは、車を集めることから始めました。企業を回り、寄付してくれる車を探しました。1か月かかってようやく1台めの寄付が決まりました。

 私は当時「車から何を生みだせるだろうか」と考え、探究していました。被災者の方に車を贈って「ありがとう」と言われることも支援の1つですが、もっと価値を生み出す方法を考えていたのです。

 ヒントは、当時仮設住宅で聞いたお話でした。仮設住宅では、住民どうしのコミュニケーションが課題になっていました。仮設住宅の入居は抽選で決まっていたので、仮設住宅では知らない人たちと一緒に住んでいたからです。

 そこで考えたのが「車を通じて、人と人とがつながる仕組みを作ればいい」ということです。これが「コミュニティ・カーシェアリング」の仕組みです。

 仮設住宅単位や地域単位で車を共有(シェア)することによって、人と人とをつなげるという取り組みです。住民の方々で役割分担を行い、鍵の管理方法や車の予約方法を決めていきます。参加している住民の方は車が運転できない高齢者の方が多いです。

 経済的に苦しいなかひとり暮らしのお年寄りがタクシーで病院にいけないという話を聞いたら、メンバーがその外出支援をするようになりました。カーシェアリングのことについて話し合う場を設けると、話題は移動の問題から、生活の問題に変化していきました。「ゴミが散らかっている」「近所の交流が少ない」という声が上がったんですね。すると、月一回のゴミ拾いやお茶を飲みながらの交流会が生まれました。

 このような前例のない活動を続けていると次第に注目を集め、新聞やテレビで取り上げられるようになり、企業からの車の寄付も増えました。仮設住宅ではカーシェアリングを通して住民同士が一緒に買い物に出かけたり、日帰り旅行に行ったりするようなつながりも生まれました。震災から10年がたち、仮設住宅はなくなりましたが、現在も石巻では11地域約500名の方々がカーシェアリングに参加をしています。

探究テーマを広げる問い

あなたが、他の誰かに言われて印象に残っていることばはありますか?

カテゴリ:防災・復興

◆コミュニティ・カーシェアリングについてもっと知りたい方はこちら

・コミュニティ・カーシェアリング実践ガイドブック(日本カーシェアリング協会)

https://www.japan-csa.org/pdf/action/docuki-web.pdf

・日本カーシェアリング協会ホームページ

https://www.japan-csa.org/