「ロボット」をもっと身近なものに

カテゴリ:ビジネス・起業

【探究 起業】「ロボット」をもっと身近なものに

ロボット開発に取り組んでいるHaloworld株式会社の司馬天風さん。もともとは原子力発電所に資材を提供する会社を経営していましたが、福島第一原子力発電所の事故がきっかけとなり、ロボットの開発に着手しました。もともと「起業」を考えていた司馬さんのこれまでと、起業家としての心構えを伺いました。

◆取り組みのきっかけ

大学生の時から、もともと起業をしたいなと考えていました。大学を卒業した後に、ITのソフトウェアの会社に就職して、企業向けにパソコンのソフトを売っていました。その後一般消費者の方向けに事業がしたくなり、そこでチョコレートカフェに転職。そのチョコレートカフェは、自分がランニング中にお店を見つけて、「何かいい店だな」と思って飛び込みました。そこで社長さんに会い、2,3か月後にその店の存在を思い出し、社長にお願いして雇ってもらいました。路面店のカフェやデパートの地下でチョコレートの販売などをしていました。

 そこで1年くらい働いたときに、父が新しく事業を始めるということを聞き、実家の新潟に戻りました。父はもともと電線の素材を作る仕事をしていて、その電線の素材を活かして燃えにくいシート(難燃性のシート)を開発していたのです。その販売先は原子力発電所でした。

開発したシートは原子力発電所の施設内に、壁や床に貼るシートとして使われるものです。主に定期点検の時に使われます。原子力発電所の安全を保つためにはほんの小さな火災を起こしてはいけないので、燃えにくいシートが必要になります。私は父の会社の経営に参加し、新潟に加えて福島の原子力発電所にもシートを納品していました。福島での仕事を増やそうと、2011年の3月1日には福島県の富岡町に事務所を開設しました。

しかし、その10日後の2011年3月11日、東日本大震災が起こり、福島第一原子力発電所の事故が発生。富岡町の事務所もいわき市に移転しないといけなくなりました。事故への対応のため、多くの建設会社の方が福島にいらしていました。その建設会社の方と関係を持ちながら、必要な資材を届けるのが、私の仕事でした。原発事故の後は、色々な資材が「すぐほしい」、「今日ほしい」というような状態。車にめいっぱい資材を積んで、お客さんのところに資材を届けられることに喜びを感じました。

例えば休日に「ボルト(ねじ)を4本持ってきて」と言われたことがあります。そのボルトが結構特殊なボルトだったのですが、片っぱしからいろんなお店に電話して、さらにボルトを作っているメーカーにも電話して、在庫がないか確認したことなどもありました。

そしてある時、言われたのです。「原発の中の状況が見たいからロボットを持ってきてほしい」と。私も世界のロボット会社に片言の英語でお願いしてみたら、メールの返信がなかったり、「福島なのでサポートできない、部品くらいしか提供できない…」と言われたりしました。

ここで、「自分たちに何かできることはないか」と考えたのです。私はロボットに興味があったわけではありません。ただ、この「ニーズ(必要性)はあるがシーズ(製品・技術)がない」という状況を何とかしたいと思いました。そこで、原子力発電所向けの資材会社とは別に、ロボットを開発する会社「Haloworld」を立ち上げたのです。もともと、大きなマーケットで新しい事業をやりたい、ということは考えてはいて、目の前で「ロボットが必要だ」と言われたので創業した、ということです。

◆どんな取り組みをしているか

まず取り組んだのは、福島第一原発の廃炉作業に向けたロボットです。放射線量の高いところで作業する遠隔操作ロボットの開発に着手。災害用ロボットを作っていたエンジニアの方との出会いや色々な方とのサポートもあり、原子力発電所の原子炉の配管の中を確認するロボットやバルブハンドルの開閉ロボットを試作しました。

ここで得た経験をもとに、次に制作したのは自律移動ロボットです。

使いやすく、また価格もある程度抑えられるようにしています。センサーを使って動いていく場所のデータを取り、周囲のものの形がわかるようにしています。自分たちで視界を作りながら動くことができるのです。障害物の情報をキャッチしながら、動くことが可能になります。ものを運ぶことも可能です。現在は50~200kgのものは運ぶことが可能です。

私は人に喜んでもらうのが好きです。「自分がお客さんだったらどこまでやれば満足するかな」ということを考えて、やっています。そうなると、「これでは満足しないな」ということを思うことがあります。

私が意識してきたのは「スピード」です。私は何かきっかけをつかむためには。スピードとタイミングが重要と考えます。ただし、タイミングは読めず、コントロールするに難しいですが、スピードは自分次第です。2,3日早く動けば、その間に読めなかったタイミングを拾えます。それを積み重ねれば、さらに1か月、1年早くタイミングを拾えるということになってくる。会社の行動指針にも「スピード×3」という言葉を入れています。

◆未来へ向けて・高校生へのメッセージ

家庭用の掃除ロボットやレストランの配膳ロボットは実用化されてきています。ただ、広く「必要不可欠」のレベルまで到達しているサービスロボットは現在この2種類程度かと思います。警備の見回り、屋外での配達、人の移動(モビリティ)から人体拡張(人が着るサポートロボット)などいろいろなタイプのロボットが使われ出してきていますが、本当の汎用化・実用化までに至るにはこれからです。

それでもロボットは今後世の中に浸透していくと思います。単純作業はなくなっていきます。そのうち人間とロボットの境目がなくなっていくかもしれない。それゆえ人間しかない本能、例えば人にほめられる・感謝されると嬉しい、自分が目指すことの自己実現が楽しい、そういう“人間らしさ”がさらに注目されるのかもしれません。

自分の親戚にも高校生、大学生の世代がいます。彼らを見ていると自分のやりたいことにのめり込んで頑張っているな、と思います。

今、高校生のみなさんには、ぜひこう思って日々行動してほしいです。

自分にとって悪いことが起きたら、自分が成長するべき、乗り越えるべき 「意味のあるもの」 と捉えて行動してください。

環境や他人のせいにして止まっているのは簡単です。そのうち行動しない理由、できない理由を探し出してしまいます。もしそうした自分を見つけたら、裏切って即行動に入ってください。その行動の中で、いろいろ試しながら、感じながら、自分が本当にやりたいことを見つけてほしいです。

探究テーマを広げる問い

あなたが今、将来やりたいと思うことはなんですか?それは相手が喜ぶことですか?(自分が「やっていて楽しい」「到達して嬉しい」と思うと同時に、相手に「とても感謝される」ことはなんだろう?)理由と一緒に考えてみよう。

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◆おすすめの本
「竜馬が行く」(司馬遼太郎)

志、物事の考え方、世の中を渡り歩く術がふんだんに盛り込まれている。尚、「司馬天風」は仕事で使うビジネスネーム。(本名:品田昌寛)「司馬」はこの司馬遼太郎から頂く。